6月23日(木)涸沢ヒュッテに到着

きのう、バスは5:20上高地バスターミナル着。

K子がすぐにトイレに入る。私も続いて入りスポーツタイツを履いてドライレイヤーの上に長そでシャツにする。ここがこんなに空いているのは初めて、と、登山のツアーコンダクターをしたことがあるK子が言う。ベンチで朝食を取る。私はおにぎり二つ。K子は稲荷ずしだ。バス乗車用のペットボトルの水を捨てる。行動はペットボトル3つ。ザックはだいぶ軽くなった。

6:00 バスターミナルを後にする。

晴れて光りが射し、青空にところどころ雲が浮かんでいる。手前の白い河原の梓川のむこうに3峰くらい山の頂がくっきり見える。あれが前穂かな、K子がいう。ふーん。

反対から歩いてきた3人組の男性の一人が、天気がいいねえ、と愉快そうに言葉をかけてきた。3人とも細身で筋肉質で馬力がありそう、いかにも登れそうな風体で、どれかの山を登って降りてきたようだ。そうですねえ、とすれ違ったあと答えた。本当にいい天気だ。数日前の天気予報が雨だったとはね、でも、12時から雨が降る予報なので、ゆっくりはしないで、ペースを守りつつ、ずんずん行く。空に雲がある方が良く見える。空だけだとつまんない、とK子が言う。そうだね。青空だけよりも雲がある方が、劇的というか絵画的になって見ごたえがある。
徳沢を過ぎて、その先が工事中で、迂回路を行く。仮設の端を渡り、向こう岸をしばらく歩いてまた仮設の橋を渡って横尾に着く。

8時半、横尾で小休止する。標準3時間のところ2時間半で来られて上出来だ。二人連れの人たちがべンチで休んでいた。トイレに行き、おにぎり一つとドライフィグを食べる。ここまでは散歩道、ここからは普通の山道だ。

10時まえ、本谷橋を渡って小休止。スパッツをつける。干しいもを食べてクレアルカリンを飲む。男性一人休んでいた。男性は先に行く。

10時半ころ出発する。ここがSガレか?と、K子が3度くらい立ち止まって言っていたけど、まだ手前だった。Sガレにはちゃんと立札があった。山道を歩くと踏むことになる岩や石は、平らな面が上になっている。歩きやすいよう手入れがされているのだと思う。

立ち止まらないで行きましょうという立札のある岩ばかりの個所を過ぎると、残雪が道にもあるようになってきた。雨がぽつぽつ降りだした。小雨だ。

雪渓に出る。せっかく持ってきたから、つけようかな、とK子は軽アイゼンをつける。私はチェーンアイゼンをつけ、防水手袋をしてトレッキングポールをザックから外して手に持つ。見るとK子のザックは既にレインカバーをつけられていて、K子はレインスーツの上着も着ている。真似をする。 

K子が先に行き、ステップを切ってくれる。踏み跡と雪の上に赤でマーキングされた地点を縫って登っていく。日光白根山で残雪の歩き方を教えてもらってよかった。今回初めてチェーンアイゼンをつけた。ザクザクつま先で雪を蹴って登っていく。マーキングされたところは雪渓の端のほうで、木の幹や枝が雪から現われていた。

踏み抜きにご注意くださいと、ヒュッテのホームページにあった。枝のあるところが安全なんだ。

K子は時々立ち止まり、マークを探す。私は付いていく。

テント場との分岐を過ぎて石や岩があり、そこは行かず雪を登っていたら、ヒュッテが頭上にあった。石の階段のところでアイゼンを外す。

12:30涸沢ヒュッテに到着。

水をはらって上着を脱いで、手続きをした。「イワカガミ」二人部屋だ。部屋は上下段で廊下に沿って続いている。私たちの部屋は一階で、天井は立っていられるくらいの高さだ。廊下側にカーテンがかかって、目隠しになる。壁側に小窓がある。サッシじゃなくて、鍵は棒状で穴に差し込んでくるくる回すやつだ。乾燥室にスパッツとアイゼンとトレッキングポールとハードシェルを持って行く。雨は大降りになっていた。外に出て階段を上がりテラスに行く。見晴らしがいい。木の床にたくさんテーブルとイスが置かれて、濡れそぼっている。小屋もある。閉まっているけど、多分ここでおでんなどを提供するのだろう。標高2310m。南に前穂高岳、西に奥穂高岳涸沢岳、北西に北穂高岳の頂があり、太古に氷河が削った大きなスプーンですくったような涸沢カールになり、東側がひらけて下っている。氷河に

「削り取られた岩石・岩屑や土砂などが土手のように堆積した地形」(ウィキペディアより)がモレ-ンというのだそうだが、その、堆積した岩石の上に涸沢ヒュッテは立っている。冬は雪崩の通り道だ。雪に埋もれさせるようになっている。

「建物全体を板で覆い、客室内に天井を支える角材の柱を立てて補強。」する。「…材料は夏、登山者が休憩するために屋根の上に設けられるテラスの木材にも利用される。」(「信州山小屋ネット」より)

名物のおでんでも食べようかな、と前から思っていたけど、雨でテラス席には座れない。部屋で行動食を食べた。ビーフジャーキーが思ったよりおいしい。これは持ってきてよかった。お客は私たち二人だけのようだ。K子はコーヒーを受付で注文して玄関の三和土のベンチで飲む。私は飲まない。職員の方が三和土のストーブをつけてくれた。古い「岩登り道具」が壁に展示されている。ハーケン、ピッケル、アイゼン、アブミ、カラビナ、昭和40年頃のビバークセット、登山靴。すべて重い。よくまあこんな重いのを背負って登った。ものすごい体力だ。雨の音がザーザー聞こえる。小雨のうちに到着できてよかった。私は、販売コーナーをじっくり見て、手ぬぐいとナルゲンボトルを買う。まだ1時過ぎなんだねえ。

私寝るから。バスであんまり眠れなかった、とK子。私は漫画と本が置いてあるコーナーで漫画を読む。部屋に戻るとK子が布団をしいて寝ている。A3くらいの紙が二枚あり、枕と掛け布団の顎が当たるあたりに置くことになっている。音をたてないようにザックを開けたり布団を敷いていたら、良いよ、起きている。とK子。私も布団に横になり、ずっとおしゃべりした。K子が10月の海外旅行に申し込んだのと、姪の結婚が決まりそうだ、という話を聞いた。

夕食は17時。数分早めに食堂に行った。ストーブをつけてくれた。運ばれた食事が豪華でびっくりした。標高2309メートルで、こんな食事が食べられるとはありがたい。メインディッシュは、ハンバーグ、カボチャの天ぷら、エビフライ、ごぼうのマヨネーズ和え、キャベツの千切り、トマト一切れ。小皿や小鉢に、ウナギのかば焼き、冷ややっこ長ネギカツオ節かけ、モズク酢に山芋あしらい、大根と高菜漬けがある。そして、ご飯と油揚げキャベツの味噌汁だ。お茶の入った小さいヤカンも持ってきてくれた。
これウナギ?とK子。ふわふわなので、よくわからない。アナゴかも、何年も食べてないからわからない、と私。でも、うなぎだ、うなぎ。ハンバーグとエビフライが特に美味しかった。油が体に滲みる。

窓から残雪の山の斜面が見える。雨は降っていないが、雲というかガスがかかっていて、頂の方は見えない。

トイレを済ませてK子は部屋にもどり、私は3冊漫画を読んで、部屋に行く。ちょっとおしゃべりをして、7:20に就寝。

K子の寝息がすぐ聞こえた。私は、眠れず横になっていた。横になっているだけでも休めるからいいやと思った。一度K子がトイレに行った。また、すぐに寝付く。すごいなあ。

私は布団の中で体が暑くて、かけ布団から足を出したりしていたのだが、一枚脱いだら、眠れたようだ。