6月24日(金)下山 涸沢ヒュッテ

きのうは、4時に起きる。残雪の山の斜面に朝日が当たるモルゲンロート(朝焼け)が、今の時期の名物だそうだ。日の出が4:30と玄関に掲示されていた。つっかけサンダルが靴箱に用意されているが、滑るといけないのでちゃんと登山靴を履く。中綿の防寒着を着る。入り口の傘を借りる。雨は降ってなかった。テラスから周囲を見る。雲が塊で空のほとんどを埋めていたが、雲の後ろには薄水色の空が見えていた。テント場には、テントが3張設営されていた。あんな雨でもテント客がいたんだ。頂を目指す山登りが目的だろうか。雨がテントにあたる音を聞きながら寝るのも、気持ちが良かった。数年前、瑞牆山でキャンプしたとき雨だった。今回私らは、ヒュッテに泊まるのが目的だ。展覧会で吉阪隆正が涸沢ヒュッテを設計したと知り、行きたくなった。K子に言ったら、じゃあ、行こう行こう、となった。
寒くて、防寒着を来てちょうどいくらいだ。灰色雲の後ろの白い雲が薄くピンクみを帯びてきた。反映して反対側のザイデングラートの雪がうっすらピンクがかった。雨が降ってきた。傘をさして、空にピンクのサングラスをとおしてみられるような色がなくなるまで、しばらくテラスに立って居た。
朝食は6時からだ。朝日が窓を通して横から射して、テーブルの上の皿や茶碗から実物の4倍くらいの長さの影が生えていた。

メインディッシュは、鮭の焼き物、サツマイモの甘露煮、昆布巻き、梅干し。小皿と小鉢に、納豆に長ネギ添え、焼きのり、しらす干し、レタスの上にハムエッグ、山芋とろろ、たくあん。ご飯と長ネギの味噌汁、それと、やかんで供されたお茶。何品もあって、すてきだ。

眠れた?一度夜中にトイレ行ったけど、雨はやんでいたよ、とK子が言った。私がまだ起きていたときだ。ああ、よく寝てたよ、寝つきがいいねえと言ったら、睡眠導入剤を飲んだとのこと。睡眠導入剤をミンザイ、と言った。ほかの人からも「ミンザイ」と聞いたことがある。山で眠れないと次の日の行動に影響するから、飲んだ方がいいときもあるよね。年をとると寝つきが悪くなるでしょ。普段から常用している人を知っている。まあねえ、あまり頼らないようにしてるけど。ふむふむ。窓の外をときどき見た。雨は降っていない。空に雲はあるが、濃い灰色ではない。

チェックアウトが8時だから、7時半に出よう、とK子が続けた。 

もうちょっと買い物したかったけど、欲しい手ぬぐいは売り切れで、次にほしい手ぬぐいをきのう買っていた。その次にほしい手ぬぐいを買い、T夫のお土産にした。
7:30に涸沢ヒュッテを後にする。すぐにチェーンアイゼンをつける。7:37歩きはじめる。最初、岩のところを歩く。カチャカチャアイゼンが岩にあたるが歩けるものだなあ。雪渓はちょっとビビった。端を行くのだけど、一か所、滑ったらずーっとしたに行きそうなところがあった。ザイテングラートのほうからごうごうと音を立てて水が細い川のように勢いよく流れている。そして川は雪渓の下にもぐっている。雪の下を流れているのだ。雪渓の真ん中あたりが窪んでいて、そこが水の道になっていると思われる。これは踏み抜いては、流される。

マーキングの箇所で、きのうより枝が露出している。雪が解けているのだ。歩きづらいが、二人で「枝の横、枝の中」と言いながら、枝を払い跨いだりして下っていった。

Sガレ手前で、チェーンアイゼンを外す。ハードシェルを脱ぐ。レインカバーを外す。晴れてきた。陽の光が強い。

本谷橋でスパッツを外す。トレッキングポールをザックに取り付ける。K子はまだトレッキングポールを仕舞わない。熊が来たら、ポールを掲げて大きく見せるのも効果があるんだって、と言いK子はポールで打つしぐさをして、やっぱり戦うしかないんだって。じゃあ、私はあとずさりしながら逃げるね。

横尾着10:20。熊は出なかった。

ベンチには軽装の人が8人くらいと、これから山に登る装備の人が3人がいた。トイレに行く。柿の種を食べる。もう散策地帯だ。う回路を通って、11:40ごろ徳沢に着く。

徳澤園併設のカフェに入り、テーブルでソフトクリームを食べる。ああ、おいしい、おいしい、おいしい。何度も言いながら、なめた。乳脂肪分が体に染み渡る。ここに泊まるのもいいよ、きれいですてきなんだ。K子が言う。カフェはコロニアル風?アーリーアメリカン調?よくわからないが、こげ茶が基調の作りこんだ木製のこげ茶のカウンターとしっかりした木製テーブルとイス。どのテーブルにも、透明プラスチックの飛沫防止版が置かれている。そとのテラス席には仕切り版はなかった。ここで一泊して、朝出て奥穂岳に登って、穂高山荘に一泊して帰るっていうのもいいよ、とK子は言った。カレーを食べていた隣の席のご婦人が、コーヒーソフトも注文して食べていた。あまり見ないようにしても目がいってしまう。コーヒーにソフトクリームをのせたものらしい。あれもいいな、でも、ソフトクリームの量が多いこっちの方がいいかな、と思い直した。満ち足りて出発する。道行く人は軽装の人ばかりだ。もうトレッキングポールしまおうかな。K子が言った。サルを見かけた。

14時過ぎにバスターミナルに着く。スポーツタイツを脱ぐ。Tシャツを着替える。ベンチで、おせんべいとカロリーメイト干し芋を食べる。土産屋を物色して、塩羊羹と切り落とし柚餅子を買う。柚餅子はK子と食べる。K子も好物だそうだ。好きで、自分で作ったことがある、とろとろのができて、小分けしにくかったよ、と私が言うと、作ってみようかな、K子が言う。

16:10のバスに乗る。乗客は私たちを入れて6人。発車して、すぐに眠る。目が覚めたら諏訪湖サービスエリアだった。肉みそエピを買って、バスで食べる。
4列シートだけど、人が居ないから、ゆうゆう隣の席を荷持つ置きにして快適だ。フットレストもある。往路はすぐ寝て気が付かなかったけど、バス内にWi-Fiがとんでいた。スマホをいじっていていたら、19時ころだろう、陽が落ちて夜になり、20:57にバスタ新宿に着いた。

K子にお礼を言ってそれぞれ家に帰る。平日の21時ごろの新宿駅南口は人でいっぱいだった。ずいぶんゆるんでいる。