10月3日(土)話を続ける手腕

 きのうは午前中は家にいた。午後はバイト。永井荷風「浮沈・踊子」岩波文庫、を読む。話を続けていく手腕はすばらしい。そして、「下品なんだよね(苦笑)」というのもうなずける。読んでいるとだんだん嫌になる、というのも。小説は始めと終わりがあって、その間をひたすら書く。書き始めたら終わりまで書き続けないといけない、という話の中で、荷風が挙げられた。

 

歩きながらの風景

 稽古がすんで、同じ方向へかえる人達にまじって七、八人、おのおずと一緒になって話をしながら興行町から表の大通へ出ると、二十日過の片割月が合羽橋から入谷の方へ通じている真直ぐな細い道のはずれに残り、街燈の光もまだ夜のまま、立ちつづく人家の軒下は真暗ですが、歩いて来た六区の方を見返ると、空は既に薄赤く、映画館や劇場の側面だけが、東雲の微光を受けて、建物の角度を鋭く鮮明にさせているので、夜と暁との境目がはっきり区別されます。

「踊子」永井荷風 岩波文庫 231ページ