10月24日(土)炊飯器ご飯の栄枯盛衰

きのうは、これからの炊飯器の使用頻度が変わる日だった。

 うちは、お米をつくっているので、一日3食ご飯だった。結婚してからずっと炊飯器でご飯を炊いてきた。炊飯器は一升炊きだ。子供たちが大学生になる前までは6人家族で一日一升炊いてきた。
 タイマーで朝に炊きあがっていて、それを夕食まで保温して食べた。前日の夜にお米を研ぐのだが、毎回その量を調整する。夕食時に炊飯器のなかにお米がないといけないので、必ずその日に6人が食べられるよう、おじいさん用のご飯が滞らないよう、1合多めにしていた。おじいさんは、麺類パン類を食事としては食べないのだ。
 いろいろ考えて調整しても、その日にご飯が残ることもある。残ったご飯はお皿に取ってラップして食卓においていた。残る量はだいたいご飯一杯分くらいなので、私が朝にそれを食べる。でも、量がもう少し増えると、おじいさんが自分でレンジで温めて食べたりもする。
 3日間くらい少し多めにご飯が残ると、おばあさんに「じいさんに冷や飯を食べさせないでくろ」と言われた。多分おじいさんがおばあさんに話しているのだ。別に、冷えたご飯をさあ食べろ、と目の前に持って行っているわけではない。お皿に残っているだけだ。残っているのがいたたまれないのだろうか。残りのご飯をレンジで温めて食べることは、おじいさんにとってかなりひどいことらしい、というのはわかった。私としては、残ったご飯を見越して少し少な目に炊いたら夜まで残らなかったなんて事態は避けたいので、大胆に研ぐ量を減らせない。
 そして、一日炊飯器で保温しておくより、炊きあがったお米を小分けに冷凍して、食べる都度レンジで温めたほうが、おいしいし、電気代もかからないのだが、おじいさんおばあさんは保温した炊飯器から暖かいご飯を食べることしか受け付けなかった。

 ここ3年は家族が3人になり、一日2、3合炊いていた。おじいさんがいつでも食べられるように、少量でも毎日炊飯器で炊いて、一日中保温してきた。
 この1年は夫が朝にパンを食べるようになり、一日2合でもご飯が余るようになってきた。私が毎食ご飯を食べてもまだ余る。一升炊きの炊飯器で1合だけ焚くのはしたくないので、2合炊いて、まあ余る。炊きあがる時間も朝だけでなく、昼に合わせてとか夕方とかも混ぜていた。おじいさんはときどきお皿のご飯もレンジで温めて食べていた。
 この半年、義理の姉が買ってくる食べ物の中に、市販のご飯のパックが加わり、おじいさんがそれを食べるようになってきた。夏はお皿のご飯を食卓に出しておくと腐るので冷蔵庫に入れていた。市販のご飯パックも冷蔵庫に入っていたから、こっちも食べるかな、と思っていた。
 そしてとうとう、ご飯を炊いても手付かずだったり、お皿のご飯も減らなくなった。おじいさんとは食事の時間が違うので、台所におじいさんがいるのをあまり見ない。昼前や夕方に炊けているのが、おじいさんはわからないのかな、と思っていた。
きのうの朝は、炊飯器でご飯を炊いていた。私が台所にいたとき、おじいさんが市販のご飯パックを自分の部屋から持ってきてレンジで温めはじめた。
 私は、
「ご飯が炊けていますよ、うちのご飯を食べないんですか」と聞いてみた。
「これでいい。一週間分買ってあるから」
私は、なにい、と驚いた。
「え、ホントにいいんですか。おじいさんのために用意してあるんですよ」
「わがまま言うようだけど、おれはこれでいい。昼間も食べないことがあるしな」
おじいさんは、温めたパックご飯を持って自分の部屋に行ってしまった。

夕方、夫に話した。夫は、
「もうすぐ死ぬ年寄りのわがままだと思って、許してやってくれ」と言った。
「でも、今までのわたしの気遣いが無にされた」
「今までの気遣いは今まで。年寄りは好きにさせておくしかないんだよ」
「じゃあ、冷凍庫にご飯を冷凍しておくことが多くなるよ。そのほうがおいしいし。食べる時は冷凍庫からだしてね」
 夫は、もうすぐ死ぬ年寄り、と思っているんだ、とも思った。