8月19日(木)「説得」ジェイン・オースティン

きのうは、昼前からサイゼリアに行く。ジェイン・オースティン『説得』中野康司訳 ちくま文庫、を読了。

朝の連続ドラマを見るように次が気になって最後まで読んでしまった。主人公は父と姉に軽んじられているが、教養があり、慎みと分別を期待され自然に身にそなわった女性だ。自分に恋愛感情を持っているかどうかわからない初恋の相手に、過去の出来事により、恋愛感情を示すことができない主人公の一喜一憂が描かれる。イギリスの地方貴族と中産階級(お金持ち)の環境の中で、周りの登場人物たちそれぞれことが運び、最後、主人公と相手との意思が急に通じ結婚へ向かう。
1818年に書かれた。200年前だ。ほぼアンの心情を中心に語られる。作者の中間的な記述がたまに入る。 

 

チャールズの馬車は二人乗りなので、アンは一緒に行かずにすんでほんとうにほっとした。しかし、クロフト夫妻(とくに、ウェントワース大佐の姉であるクロフト夫人)にはぜひ会いたいので、夫妻が返礼の訪問に来たとき家にいてよかったと思った。クロフト夫妻が来たとき、チャールズは留守だったが、アンとメアリーは一緒にいた。提督がメアリーの隣に座って、楽しそうに二人の男の子のお相手をしているあいだ、アンはクロフト夫人のお相手をした。おかげでアンは、夫人のどこかにウェントワース大佐と似ているところはないかと観察することができた。残念ながら顔立ちは似ていないが、声や物の考え方や言い方が、どことなく似ている気がした。
 クロフト夫人は、背は高い方ではないし、太ってもいないが、肩ががっちりして、背筋がぴんと伸びた精悍な体つきをしているので、たいへん堂々とした印象を与えた。きらきらと輝く黒い瞳と、きれいな歯をもち、全体としてとても感じのいい顔立ちだった。ただし、夫と同じくらいの歳月を海上で過ごしてきたため、肌が赤く日焼けしているので、三十八歳という実際の年齢より多少老けて見えた。態度は率直で、自然で、きっぱりしていて、自分の考えや行動にたいして、疑いや迷いなどいっさい持たぬ人のようだった。でも粗野な感じはまったくなくて、たいへん明るい人柄だった。アンは、今回のクリンチ屋敷のことで、夫人が自分にとても気をつかってくれているのがよくわかり、その心づかいがうれしかった。でも、とりわけうれしかったのは、紹介されて三十秒もしないうちに、こう確信できたことだった。つまり、クロフト夫人は例のことを何も知らず、何も疑っておらず、アンにたいして何の先入観も持っていないらしいということがわかったのだ。あのことに関してはアンはすっかり安心し、おかげで力と勇気が湧いてきた。ところがそう思ったとたん、アンは雷にでも打たれたようにぎょっとした。なんと、クロフト夫人は突然こう言ったのだ。

「私の弟がこちらに住んでいたときにお近づきになったのは、あなたのお妹さまではなくて、あなただったのですね」

アンは、顔を赤らめる年ごろはとっくに過ぎたと思っていたのだが、心を乱される年ごろはまだ過ぎてはいなかった。

 

 ジェイン・オースティン「説得」中野康司訳 ちくま文庫 81~82ページ