10月11日(日)意図のわからない訪問者 

 きのうは、意図のわからない訪問者がきた。

 二階から見ていると、黒い車が家の前に停まって、男性が下りてうちの敷地に入ってきた。私は外に出た。男性は、年は20代後半くらいだろうか、切りそろえた前髪、黒縁の眼鏡に白い不繊布マスク、白いシャツの上にグレーのカーディガンを着て紺のズボンをはいている。ヤセ型で肩幅があり、肩のくぼみと盛り上がりがカーディガンの上からわかる。男性は私を見ると近くに来た。私はマスクをするのを忘れていたと気が付いた。男性は、それもあってか、私との間を1メートルほどあけている。
 男性は、
「カーナビで」
 と言ったあと、なにも言わない。肩をすぼめて言いたそうに、数回軽くうなずいたりしている。え、とも、あ、とも息をはいているかもしれないが、目だけは意味ありげに視線を送ってくる。私は、しばらく男性が言葉をつづけるのを待っていたが、
「カーナビで?」と言ってみた。男性は、言いたそうにしているだけ。私は
「ご用件はなんですか」と聞いた。男性は、
ヤマザキさんの」と言ったきり、言いたそうにしているが、続けない。私は7秒くらい待って、
ヤマザキさんのうちにいきたい?」と言った。カーナビでヤマザキさんの家を探しているのかも知れない。すると男性は、私から離れて、玄関の方にささっと歩いていき、ポストを見てそこに書いてあるうちの苗字を確認して戻ってきた。
「トミオカさん」と男性は言った。
「ご用件はなんですか」私はまた尋ねた。男性は言いたそうにするだけで、何も言わない。
「私、ご飯食べたいんで、いいですか」私は言い、家の中へ入ろうとすると、男性は、二歩あとずさり、向きを変えて黒い車に戻っていった。

 ご飯を食べながら、男性がヤマザキさんと言ったのは、うちのつもりだったのかもしれない、と思った。そして、最初、男性はポストに向かっていたんだな、と思い返す。私が違うところから出ていって、私のところに来た。割に純粋そうな感じだった。ちょと悪かったかな、でも、何も言わないんじゃ応対のしようがない、と思った。

 食後、私は車で出かけた。500メートルほど行ったところに、黒い軽自動車が停まっていた。通り過ぎるとき見たら、あの男性だった。ちょうど、助手席に上体を向けて何かを置く動作をしていた。何かの調査なのかもしれない。悪かったと思わなくてよかったんだ。