3月25日(金)鴨川紀行2

きのうは、いつもより早く起きた。よく眠れた。日の出は見なかったけど、日が昇っているところを見た。もうサーファーは海に出ている。曇りときどき晴れの予報だ。和室で本をめくっていたらT夫も起きてきた。おはようと挨拶しても返事なし。恨めしい顔でこちらを見て洋間に行った。私のトイレに入る物音で起きたのかもしれない。ドアの開け閉めをそおっとした。カチャッというノブが回る音までは調節できない。
T夫は洋間のソファに身を沈め、スマホで大谷のyoutube を見たり、何か検索してる。7時半ごろ、屋上のプールのようなお風呂に行こうかとなった。T夫はずっとスマホをいじっていて、その様子を見ながら一緒に部屋を出ようと待っていた。T夫は先に行ってていいよ、と言う、じゃあ、先に行く。どうせ私の方が時間かかるからね、と言って部屋を出た。廊下のむこうに人がマスクしているのを見て、マスクを取りに戻った。
更衣室で、置いてあるホテルの水着を着る。ホルターネックのタンクトップと膝上丈の短パンだ。ドアを開けて出ると、バルコニーのような構造で、長方形のプールがあった。体を洗う場所はない。お湯に入るとタンクトップの上方、胸のあたりから、空気がシュズボボボと出て、水中でタンクトップがふわふわする。お湯から出るとタンクトップが胴に張り付く。湯の中を4歩くらい歩いて海に面した端に行く。湯につかり、タンクトップを下に引っ張りながら海を見ていた。太陽は上にあり、晴れてきて海は白っぽく光っている。小さいお子さん2人とお父さんお母さんの4人家族が先にいた。私が来て数分で出ていった。屋根はない。お湯も光を反射するなと思った。顔や肩の肌が日光でちりちりしてきたので、T夫を待ちきれず、引き上げた。

行き違いになったらしく部屋に誰もいなかった。しばらくして今日6時半に針灸医院の予約を取ったよ、部屋に帰ってきたT夫が言った。
朝食は、T夫が洋食で私が和食をえらんだ。指定の8時に持ってきてくれ、これまた品数の多い朝食だった。

チェックアウトは部屋で希望の時間にできるそうで、聞かれて、じゃあ、と11時にした。旅行番組をテレビで流しながら、カフェインレスコーヒーを飲んで、本をちらちら読んだ。スマホを見ていたT夫が、もう出よう、シャチパフォーマンスが10時半からだ、と言い出し、支度をしてロビーにおりた。
車を道路に出したらすぐ鴨川シ―ワールドだ。まだ10時過ぎで、水槽の魚たちを少し見て、ショウのスタジアムに行く。ベンチの下から8段までは水がかかります、濡れるか濡れないかではありません、濡れるかびしょ濡れになるかです。運が良ければ、びしょ濡れになりません。シャチたちはわざと水をかけます、朝リハーサルしました。濡れているところまでは水が飛びます、と、係の人が通路に立って大声を出している。正面の9段目に腰を下ろした。でも、足元は濡れている。シ―ワールドの絵がプリントされたビニールレインコートやチュロスキャラメルコーン販売の人が客席を回遊している。T夫はシャチ型のプラ袋に入ったキャラメルコーンを買った。8段までの人は、レジャーシートを3人で持って盾にしたり、持参したのや買ったレインコートを着て備えていた。私は前席に人が座れば濡れないと踏んだが、来ない。曇ってきて風が吹いている。中綿のアウターを着てちょうどいいくらいの寒さだ。観客席端の10段目くらいに移動した。
シャチは大きい。ジャンプするだけで迫力がある。そして、水をよく飛ばした。トレーナーを乗せて泳いだり、トレーナーが先に飛び込んで、シャチが鼻先でトレーナーの足裏を押して、鼻先から人が棒のように突き出ている姿で泳いだり、トレーナーが飛び込み、トレーナーを鼻先で押して、人シャチともに水面から垂直にジャンプしてでてきたりした。トレーナーの体幹もかなりすごい。シャチの鼻先に片足裏で立ち、ぐらつかないのだ。

おお、すごい、すごーい、声を上げて楽しんだ。シャチパフォーマンスが終わったあと、のんびりしたアシカパフォーマンスを見て、水族館の水槽に戻る。
ベルーガは子育てで、パフォーマンスはお休み中だ。水槽にいるところは見られるのでしばらく見ていた。大人のベルーガは4頭くらいだったか。大人の半分くらいの大きさの子どももいた。私はガラス(プラスチック?)面のはしで壁との境目近いところにいた。ベルーガはみんな、水槽の中をぐるぐる回っている。私に向かって泳いできて向きを変え、そのままガラス沿いのコースを取りガラスが尽きて壁に沿い、またガラスが始まるところに頭から向かってくる。向きを変えるところは、あと少しでガラスにぶつかりそうだ。でもするりと頭まげて体を回転させてガラスすれすれで背中をお客に見せて泳いでいく。たぶん遊んでいる。ぎりぎりのところを狙っているのか、芸術的なカーブを求めているのか、お客をうならせたいのか。私は手のひらをガラスに付けて、ガラスのすぐ向こうを泳いでいくベルーガの背中をなでているつもりでいた。
どうやって芸を覚えるんだろうな。T夫が言う。
身の危険がなくて、餌ももらえて、やることないから芸でも磨くか、ということになるのかな。私が言った。

クラゲの一生は植物みたいだった。ウミガメの浜のウミガメは、何頭もガラスに向かって泳いでいた、垂直には進めないから、ガラスに手足と甲羅の横をざっざっとつけてガラスに沿って進んでいる。壁に体をつけて沿って泳いでいるのもいた。遠くに行こうとしているのだろうか。

イルカパフォーマンスはいいや、とT夫が言うので、見ないことになった。水族館を見終わって、車に戻る。駐車場に観光バスが停まっていた。めずらしいねえ、団体旅行か、二人で言い合った。バスの正面の団体名を見た。学区の県立高校2年生の団体だった。バスは1組から8組まである。遠足かしらね。防止法案が解除になったから、来れたのかなあ。私が言う。
高校生がいっぱい入ってきていたな。T夫が言う。水族館で大勢すれ違った。

私たちは12時半ころ鴨川シ-ワールドを後にする。
古いカーナビが導く、味のある細い海沿いの道のあと、広い道も走った。13時45分ころ、道の駅とみうら枇杷倶楽部に着く。カフェレストランは施設の点検かなんかでやっていなかったが、入り口のテイクアウトコーナーに何卓かテーブル席があり、そこで、枇杷カレー(ナン)を食べた。スプーンが使い捨ての木製で、なかなかいい。アイスみたいに平べったくなくて、普通のスプーンみたいにくぼんでいる。
あ、ほらこれ、深くなっている、T夫が言った。
うん、と答える。
ナンは今焼いて作ったみたいだ。枇杷カレーは、お土産で一人前の箱に入ったレトルトが売っているから、あれかもしれない。
これ、焼いたみたいだね、私が言う。
インドから来た留学生が作ってくれたナンは、クミンが入っていた。T夫が言う。
クミンシードは家にあるよ。カレーに入れているのよ。ナンってどうやって作るのかな。
小麦粉を使ってた。
どうやって膨らませるのかなという意味だけど、と私は思う。T夫は続ける。
砂糖と塩と、あと油も入っていたな。
そう。あとで検索しよう。
道の駅に入ってくる人のほとんどが食べるのかと思うほど、枇杷ソフトを買い求める人が、ひっきりなしだった。私の横の物置台に、ざるに盛られたバナナがあった。一本100円、テレビで紹介されましたと書かれたカードが添えらていた。それを言うと、T夫は買い、皮に張られたシールを見つめてからバナナを食べた。珍しいデザインのシールだった。
2時45分に入り口集合で、店内を見たが、私は結局お菓子を買った。T夫はアジの干物とこんにゃくを買っていた。
高速道路に乗って帰る。途中立ち寄ったサービスエリアで、鴨川シーワールドにいた観光バスがずらずら停まっていた。高校生がバスから出てきたり、トイレを済ませてバスに帰るところだったりしていた。バスによって到着時間が違うのだろう。

歩きながらスマホを出している生徒はいなかったな。頭のいい学校だから、ちゃんとしているんだな。運転しながら、T夫が言った。

4時半ころ渋滞が始まった。ゆっくり走ったり止まったりしている。
うしろの高校の観光バスは渋滞につかまったかな、まだこの辺は動いている、とT夫は言った。少しして、隣の車線をあの観光バスが後ろから来て前に進んでいった。あいだをあけて3台。まだあと後ろの方に5台いるはずだ。先に行った3台目のバスはずっと前に行ってしまいときどきしか見えなくなった。そして私たちは高速を降りた。観光バスは同じインターチェンジでは降りなかった。

家に着いて、アジの干物を解凍して、春雨サラダと味噌汁を作った。ご飯は冷凍してあるのをレンチンした。もう待っていれば豪華な食事が出てくることはない。豪華でない食事を作る日常に戻った。T夫は針灸医院に行った。